大学発ベンチャー 成功の秘訣

2007年11月6日

岐阜大学発バイオ企業
長良サイエンス株式会社
代表取締役 中 塚 進 一*
*岐阜大学教授の研究成果活用兼業(文科省、人事院承認)

政府主導の大学発ベンチャー1000社創業の目標が達成され、既に大学発ベンチャーの創業事例は1500社以上になったと思われる。1990年のバブル崩壊以後の日本経済の救世主として、大学の知的財産を社会に還元して経済を活性化するために大学発ベンチャーが推奨されてきた。その大学発ベンチャー創業支援の一環として2000年4月に国立大学教官の会社役員の兼業が許可された。

筆者は、既に1999年9月に岐阜大学の研究成果を活用して大学発ベンチャーを立ち上げていたので、早速文部省、人事院に兼業申請した。研究成果活用兼業として弊社代表取締役への就任が認められて国内初の国立大学教官の社長兼業例となった。今日では役員4人を含む総勢8人で、約130種類の標準品試薬を生産し、受託精製等の業務も順調で、2006年度決算(2007年6月末、第7期)では年間総売上額6800万円を達成した。

年間1000万円以上の設備投資と出身母体である岐阜大学への研究支援(寄付金年額数百万円、天然物試薬年間数千万円相当など)を達成しつつ黒字を確保している。弊社は大学教員自身が全額出資した完全独立型の大学発ベンチャーなので独自の経営方針を貫く事ができ、「大学、地域の活性化と研究者の地位向上を目的とした大学発ベンチャー」を目指している。

大学発ベンチャーとは

大学関係者が少しでも関係していれば大学発ベンチャーであると云われている様だが、大学卒業者が同世代の50%以上となった現在、大学が係わらない方が少ないとも言える。したがって、大学発ベンチャーとは、大学人、特に教員がその高い教育・研究レベルを元に、大学発ベンチャー創業とその運営に主体的に加わって産業の発達に貢献し、大学の活性化を達成する、そんな重要な使命が大学側にあるといえる。従って、大学発ベンチャーが、大企業のための広告塔であったり、名前貸しによる研究費稼ぎや小遣い稼ぎに利用されるなどもっての外であり、公的補助金を獲得するためにできたと思われる「正社員も売上げも無い大学発ベンチャー」も見苦しい。

大学発ベンチャーの成功とは

大学発ベンチャーが注目されてはや7年、大学発ベンチャーの成功事例が華々しく紹介され、大規模な大学発ベンチャーでは資本金は数十億円、会社の時価は一千億円に達している。したがって大学発ベンチャーの全体では1兆円以上の時価となり、如何に期待されているかがわかる。しかしながら、その期待される大学発ベンチャーもそれだけの実力が有ればよいが、殆どの会社では研究開発段階で実際の商品がないことが多く、親会社からの研究支援(年間数十億円に達し、売上げとして処理される)で運営されている。

通常の企業の商品は一度売れだせば毎年継続して売れると期待できるが、商品がまだ無い大学発ベンチャーの場合に、親会社がいつまでサポートしてくれるかは全くの不明。自力で企業活動の継続を決定できないようでは単なる子会社ではないか。 

大学発ベンチャー成功の秘訣

成功の秘訣は? とよく聞かれるが、答えは簡単で「成功すると確信できる学問的レベル、技術があると判断して創業しました。成功するまで頑張るだけです」。創業者自身に自信がないようでは大学発ベンチャーとは言えず、賭け事に他人を巻き込んではいけません。

敢えて弊社の特徴をあげると以下の通りです。

1.明確な起業目的:大学の活性化。地域の活性化。研究者の地位向上。
2.独自の技術:これまでの40年間に培ってきた独自技術。HPLC等の分離精製技術、有機合成技術、微粒子の分級(粒揃え)技術など。すべて、好きで研究して来た成果。
3.明確な責任体制と迅速な決断:役職たるもの即決できること。
4.営業不要:他社にない独自商品、独自技術があれば営業は不要。どうしても入手したい人は、皆さんがインターネットで探してくれます。
5.他人の懐を当てにしない:ある物を生かし、自力で解決。もちろん株式は公開しない。ベンチャーは他人を儲けさせる為のものではありません。
6.家族、社員等に恵まれること。
7.チャンスはかなりある、つかみ損ねない事。
  研究に自信がある人は、ぜひ創業されることをお勧めします。
8.目標は低いほど達成し易いので欲張らないこと。とりあえず、100人規模のハイテク企業に成長して、大学、地域に貢献しつつ研究者の地位向上を達成できれば、家族、社員、大学関係者などに納得してもらえるのではないだろうか。

あとがき

  ホタルイカが光るところを見に富山(滑川市)まで出かけました。生物発光の研究は名古屋大学時代にお手伝いしたことがありますが、すばらしい神秘的な光に会社と大学研究室から出かけた全員で見とれてしまいました。

研究を楽しみながら 世界を制す
長良サイエンス(株)